· 

孤独なるグルメ

爪の長さや弦の選択に囚われず、幸福に空腹を満たすとき、つかの間、ギタリストは自分勝手になり、自由になる。

平日の昼間に誰にも邪魔されず、気を遣わずものを食べるという孤高な行為。

この行為こそが、ギタリストに与えられた最高の癒し、と言えるのである。

 

お、まだ松戸での仕事まで3時間ほど空いている。

なんだか強力に腹が減ってきたぞー。

 

夕焼けだんだんか、なつかしいなぁ。

 

 

 

 

 

日暮里と言えば、ほとんど仕事は東口で、いつもなら手打ちらーめん「馬賊」で済ますのだが、今日はその気分じゃない。

 

今日の気分はエスニックだ。

 

「ZAKURO」に行って、久しぶりにアリさんにイジってもらうか。

 

 

そうそう、この感じこの感じ。ちょっと御無沙汰だったけど相変わらずのたたずまいが嬉しい。

 

記念撮影している人もいるけど、観光客かな?

 

 

 

 

もしかしたら外国人かもしれない。

 

なんか見られているような・・・関わったら面倒くさそうだから、さっさと店に入るか・・・。

 

まだ12時前で店は空いているのに、まさかの相席・・・しかもさっきの男だ。これは誤算だったなぁ。

 かといって、今さら「やっぱり帰ります」と言える勇気もない。

 

諦めて腹をくくるか。

 

「あ、ぼくは『お腹ペコペココース』で。」

 

向かいに座った男はなにか困った様子で五本指ソックスをアリさんにイジられながら必死にスマホをいじっている。

こういう時、困っている人を放っておけないおせっかいな性分は我ながら気に入らないが、仕方がない。

 

「Can I help you?」

 

どうやらスマホのカメラのピントが合わないようだ。

 

マクロモードになっているのではないか?と身振り手振りで知らせたらなんとか通じた。

 

まったく世話の焼ける男だ。

 

 

 

 

「オイ!そこの冴えないオトコ~、ちょっと立ってこっちコーイ!」

 

アリさんに呼ばれた男はなすがままに民族衣装を着せられた。

 

親切な私はその様子をカメラで撮ってあげた。

 

まるで「タイタニック」のあのシーンみたいだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポーズも決まってご満悦の「冴えないオトコ」(笑)

 

アリさん、さすが上手いこというなぁ~。

 

 

「オイ、もうひとりの冴えないオトコ~、おまえもこっちコーイ!」

 

え?ぼ、ぼくも??

 

「コレは、オレが着るために注文した服だけど、着いた時からもうすでにカビ臭かったヤツね。特別にオマエに着せてやるヨ~」

 

帽子もムリヤリかぶらされた。

 

 

他のテーブルの何の罪もないお姉さんたちまで全員衣装を着せられて、無理やり記念撮影。

 

でもなんだか楽しくなってきたぞー!

 

他のお姉さんがたに掲載許可はもらっていないので、アポフェス展示製作家の面々の顔に変更しておこう。

 

 

こうして今日の孤独なるグルメは終わった。

 

まだ時間ががあるので東口に回ってみた。
「馬賊」の麺を打つ音が響き渡っていた。


さて、今度こそひとりになって、ルノアールでコーヒータイムだ。

飲んだら次の現場の松戸に向かおう。

 

あ~、今日も孤独だったなぁ~。

追記

今日のランチでたまたま相席した観光客らしき冴えない男のブログを発見。

こちらもほぼノンフィクションであるが、解釈によってこのように違いが出るのが面白い。

登場人物の中で、この男に「マエストロ」と呼ばれている意地の悪い中年男の描写が秀逸。

その滑稽な様子が作品全体のアクセントになり読者の心を心をひきつける。

とにかく、決して読んではいけない作品である。