聖なる傘の物語

「傘」というものは 『雨をよけるため』ではなくて、もはや『どこかに置き忘れるため』に存在するのではないかと私は疑っている。

傘業界の陰謀で、なぜか自分の近くには置いておきたくないような気分にさせる薬品が傘の至る部分に塗布されているはずだ。

100円ショップで売っている傘でさえ置き忘れてしまうのだから、薬品のコストはずいぶん低いのだろう。業界全体の血のにじむような汗と涙の結晶だと思う。悪い奴らの絶え間ない努力にだけは敬意を表したい。

 

私は体質的にこの薬品に過敏に反応するようだ。

傘を購入して一度も開くこともないまま、どこかにおいてきて、しかもどこに置いてきたのかさえ記憶にないことも多い。

 

ということで、慢性的な傘不足に陥っており、現在は折りたたみ傘と100円ショップで購入したずいぶん小さめの傘の2本しか持っていない。

今朝はまだ雨は降っていなかったものの、予報ではこれから台風が接近、ということである。

傘を持って都内でのミッションに出かけることになったが、仕事道具と大きなリュックを背負った身に台風の影響のある雨だと、上記した2本ではいずれも役に立たないであろう。

 

ふと物置を見ると奥に緑色の大きな傘がある。

そういえば秘書も務める妻が

 

「そうね・・・よっぽどのことがない限り使わないほうがいいわ。」

 

と言っていた古い傘だ。

 

「壊れてはいないのよ。ちゃんと使えるし、しっかりした傘なの。けど・・・いろいろ問題が起こるかもしれないわ。」

 

とも。

 

私ごときでは使いこなせない、なにか聖なる力の宿った傘なのか??

 

しかしながら、今日のこの状況は “よっぽどのこと” ではなかろうか?

 

妻を説得してみたら意外とあっさり了承。

ついに私にも聖なる傘を使いこなせる力がついたと認めてくれたのか?!

 

意気揚々と出かけ、はたして予報どおり夕方から雨に。

天候を心配したクライアントからのキャンセルも多く、ミッションを早目に終えて、帰り支度を済ませた。

 

さぁ、聖なる傘よ!今こそその持てる力を解き放つのだぁーっ!

 

私は勢いよく傘を開いた。

 

「あああーーーっ!!!」

こ、これは一体!!・・・

 

もしかしたら何やら恐ろしい組織の傘かもしれない。

 

私はこの組織の名前をすれ違う人々に判別させないよう、聖なる傘の柄をくるくる回し続けながら家路を急いだ。

 

・・・以上です!編集長~っ!!