日付も変わり、妻が眠ったころを見計らって、日中にこっそり購入しておいたクラシックギター用の糸巻きを取り出した。
こんな時間ではあるが、アポヤン道ライフを支える重要なアイテムである「アポヤンド養成ギター」の糸巻きを交換するためだ。
我が組織が東南アジアの某国の職人に試作として作らせたこの養成ギターは、今や間違いなく私が自宅で一番長い時間弾いているギターだが、構造上、糸巻きとナット部分との角度がどうしても強くなるので、遊びの多い粗悪な糸巻きだと空回りして使い物にならない。
今回の糸巻き、ヤミレス家と関わりの深い名古屋のアラ〇組が密造・流通させているという噂のARIA製品、その中でも金額のかなり安いものではあるが、どっしりした質感と、手に良くなじむ黒いペグ、遊びの少ない可動性と、とても優秀で全く問題がない。
さて、このような類の仕事は人々が寝静まったあとに始めるのが私の流儀だ。
しかし、作業を開始はしたものの、私の電動ドライバーにはサイレンサーはついていない。
気づかれないように短時間でさっさと始末するにはサイレンサーは是非とも欲しかったところだが、近所のDIYショップの店員は “そんな電動ドライバーは見たことも聞いたこともない” と最後までしらを切りとおした。
きっとこの辺りの店はどこも対抗組織の縄張りなのだろう、裏ルートにコネのない私はサイレンサー付きをあきらめるしかなかったのである。
私は慎重に電動ドライバーの引き金を引き続け、回転数を上げないようにして騒音を必死で抑えつつ、必要最小限の穴だけをあけた。なんとか誰にも気がつかれずに片方の糸巻きを交換出来たようだ。
これ以上やると妻が起きてしまう可能性があるので、そうなると大変危険である。
そんなリスクを冒してまで結果を急ぐほどわたしも坊やではない。
もう片方は明日以降にすることにして、ウィスキーでもひっかけて眠るとしよう。
数時間後には「7時半に起きてゴミ出し」というもっとも重要な任務が待っている。
今日は週に二回の燃えるゴミの日なのだ。
失敗は絶対に許されない。
もし失敗したら私は組織から追われることになるであろう・・・。
・・・以上です、編集長~っ!!