老眼狂騒曲 その4 「桐島、老眼はじまってるってよ」

眼鏡市場から家に帰るなり布団に潜り、しばらくブルブル震えていたが、やはり男たるもの最初に決めたとおり3月中に決着をつけようと決意。

 

最近駅前に出来たTーFRONTという恥ずかしい名前の商業施設にZoffという眼鏡店があったはずだ。

 

事前にインターネットで値段を何度もチェック、今度は大丈夫だろう。

しかもすでにもう私は眼鏡店初心者ではない。立派な眼鏡店“初級者”なのだ!

 

「検眼からのご購入でよろしいでしょうか?」

 

私は横目で商品棚の値段をチェックしながら「お、お願いします」と答えた。今度は“お願いすます”と言わなかった。上出来だ。

 

Zoffの検眼は眼鏡市場より若干あっさりしたものであったが、店員さんに「ひらがながスラスラ読めてますね~」と褒められたので今日一番に気分が上がった。

ひらがなが読めて褒めらるのは一般的には小学校低学年ぐらいまでだろうが、私のように努力を惜しまなければ、50歳を目前にしても称賛を浴びることが出来るのだ。

老眼鏡の度数も決まり、いよいよ、緊張のフレーム選びに。

 

「あ、こ、この値段は、レ、レンズも込みでの値段なんでしょうか…」

 

恐る恐る聞く私に

 

「はい、5000円からすべて込みの値段です!」

 

と嬉しい答え。

 

金属性のフレームとプラスチック製とで悩んだが、軽くて初心者にも負担が少ないらしいプラスチック製に。もちろん最低価格5000円のラインナップからの選択だ。

 

フレームも決まり、30分で完成というところで「お手元にご不要の眼鏡はございますか?」と店員に聞かれた。

なんでも期間限定で、不要な眼鏡を下取りに出したら1000円クーポンがもらえるらしい。

不要なものといっても数年前に軽井沢の土産屋のような店で買った1000円ぐらいの老眼鏡しかない。

さすがに妻の眼鏡を持っていったら私自身が不要なものとして家を叩き出されるだろう。

 

「以前に1000円ぐらいで買った老眼鏡でもいいんですか?」

 

と聞くと、壊れてなければ本当に良いらしい。

どういうシステムなのかよくわからないが、ここはこの提案に乗るしかないだろう。

例え危険な罠が待っているとしても、男には避けては通れない時があるものだ…。(続く)→最終回