昨日は朝からの雨。
こんな日はなぜか憂鬱になり、いたずらに不安な気持ちになる。家にいるのも辛く、あてもなくフラフラ出歩くことが多くなった。
今日はあえて雑踏の中に身を置いてみようとギターを背負って、名誉埼玉県である池袋で電車を降りた。
すると見知らぬ外国人が声をかけてきた。
「ハーイ!迷える子羊さん!元気ないですね~」
わたしは全身の警戒レベルをマックスにして答えた。
「な、なぜわたしが迷っているとわかったのですか?!」
彼は、当然だとばかりに優しくうなづき、急に歩き出した。
「さぁ、着いてきなさ~い!今のあなたにとってとても良いところに連れて行ってあげましょう!」
一体どこへ連れて行かれるというのだろう?
しかしここまで来たらもうあとには引けない。こうなったら地獄の先までついていくまでだ。
地下鉄に乗ること数分、着いたのは「地獄の先」ではなく「護国寺の駅」だった。
さらに歩くこと数分、気がつくと私たちは教会の中にいた。
この人は神父様だったのか?
「さぁ!心を開いてこの音楽を聴きなさーい!」
神父様は私のギターを奪うと慎重に調弦をし、おもむろに弾きだした。
「な、なんという美しい音楽なのだ!」
神父様の奏でる、優しくも威厳に満ちた音は教会に響き渡り、ただ一人の聴衆である私の頬を溢れる涙はとどまることを知らなかった。
そしていつしか私の心の中の警戒や不安、迷いは姿を消して、ただただその音楽で満たされたのであった。
「これでもう大丈夫ですねー!それではさようなら!迷える子羊さん!またいつか会いましょう!」
神父様はあっという間に地下鉄の階段を駆け下りていった。
「せ、せめてお名前をーっ!」
・・・私の声はすでに小さくなった彼の背中には届かなかった。
ありがとう!神父様!いつかきっとまた会える日まで!
さて、カミさんへの土産に群林堂で豆大福でも買って帰るか・・・。
いつの間にか雨も止み、初夏を思わせる爽やかな風が吹き始めた。
出演 私:キム・ヨンテ
神父:レオナルド・ブラーボ
製作 日本アポヤンド研究開発機構
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